仙台高等裁判所秋田支部 昭和25年(う)272号 判決
なお職権をもつて本件訴訟記録により原審における訴訟手続の適否を調査するに、(一)昭和二十五年七月二十七日の第二回公判期日に検察官は原判示第三の強盜の点に関し実況見分書の作成者能代市警察署勤務巡査部長石川利雄の尋問を求めこれを検証現場たる能代市向能代字上野番地不詳田中富治方に喚問せられたいと請求したのに対し裁判官は被告人及び弁護人の意見を聴いたうえで、これを採用し同証人を検証期日に右現場に召喚して尋問する旨決定しこれを告知し、後にその検証期日を同年九月七日午前十時と指定し(第三回公判調書参照)右証人を決定の通り召喚した結果、同証人は指定された日時場所に出頭したのでこれに日当を支給しているのに拘らず(第百五十七丁及び第百八十三丁参照)、同証人に対する尋問調書は見当らないので、その証人尋問は実施されなかつたものと解するの外ない。しかも検察官が右証人の尋問を抛棄したり、或は裁判官が前記証人尋問決定を取消した形跡はないので原審はその採用決定をした右証人を尋問しないままに結審し原判決を言渡したものであり、(二)弁護人も前記第二回公判期日に証人岸部カヨの尋問を求めたところ裁判官は検察官の意見を聴いたうえ、右証人尋問の採否を留保する旨決定を言渡しながら、その後同証人尋問の採否について何等の決定がなされていないし、また右弁護人から証人尋問の請求を取下げ抛棄した模様もないので、原審は右証人尋問の請求に関し決定をしないままで結審し原判決を言渡したものとなさざるを得ない。
以上の通りであるから原審は証人石川利雄の尋問をなし、また証人岸部カヨの採否を決定すべきであつたのにこれをしなかつた点において、その訴訟手続は法令に違反したものであり、しかもこの違反は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点においても原判決は破棄を免れない。